東京高等裁判所 昭和52年(う)216号 判決
被告人 崔永植
〔抄 録〕
論旨は要するに、原判示第一の事実につき、(一)原判決は刑法六〇条、爆発物取締罰則一条を適用しているが、被告人は情を知ってダイナマイトを山田に交付したに過ぎないから、同罰則五条の幇助をもって律すべきである。(二)かりに被告人に共謀の事実があったとしても、被告人は実行行為には関与していないのであるから、爆発物使用の共謀に止まる者として同罰則四条を適用すべきである。(三)原判決は被告人の所為を共謀共同正犯として刑法六〇条を適用しているが、被告人は山田に対して心理的拘束を与えたものではなく、山田らの行為を利用して自己の意思を実行に移す必要はなかったのであるから、最高裁判例の認める共謀共同正犯にはあたらない。従って、原判決は法令の適用に誤りがあるというのである。
そこで検討すると、(一)被告人の原判示第一の所為について事実誤認のないことは先に判断したとおりであり、右は単に情を知って山田らにダイナマイト等を交付しただけのものではないから、前記(一)の主張は前提を欠くものである。(二)爆発物取締罰則四条の共謀に止まる者に関する規定は、同罰則一条の罪を犯そうとして共謀したが共謀者のうち何人も実行行為に出なかった場合に、共謀したこと自体を処罰する趣旨のものと解するのが相当であり、本件のように共謀にもとづき現実に同罰則一条の罪が実行された場合には適用の余地がないものというべきである。そうして、同罰則四条の規定は刑法八条但書にいう特別の規定には該当せず、共犯に関する刑法総則の規定の適用を排除するものではないと解すべきであるから、原判決か原判示第一の事実について刑法六〇条、同罰則一条を適用したことに所論のような誤りはない。(三)原判決が認定した本件共謀の経緯、態様、被告人が犯行の準備に関与した程度、特に被告人が、山田から大久保一家に襲撃されたことに対する報復措置として同一家の幹部宅にダイナマイトを投げ込み爆破したい旨の提案を受けてこれに賛成し、攻撃目標や実行担当者について打ち合わせ、知人方に預けてあったダイナマイトを取り寄せたうえ、みずからもこれに雷管、導火線を取り付け、更にそのダイナマイトを運搬する手配をして山田らと共に群馬県安中市まで赴いた(所論のように山田らがダイナマイトを投げ込むのを恐れて監視するため同行したものとはとうてい認められない。)ことなどにかんがみると、被告人が山田らと共に、山田の輩下の者において稲垣斐方家屋にダイナマイトを投げ込み爆発させることを目的として、共同の意思の下に一体となり、相互に他人の行為を利用してその目的を実現するための謀議をし、それによって本件犯行を実行したものと認めることができるから、被告人を人の財産を害する目的をもってする爆発物取締罰則一条の罪の共謀共同正犯としてその所為に刑法六〇条を適用した原判決は正当であって、同条の解釈適用の誤りはない。
(小野 斎藤 小泉)